昨年のクリスマスのちょっと前の夜、私は10歳になる一人娘とベランダに出ました。
その夜は関西でふたご座流星群が見られるとのこと。
お風呂上がりの身体が冷えないように、ダウンにマフラー、厚手の靴下と、もこもこに着こんで、2人でベランダに出るのは初めてのことではありません
娘はまだ一度も流れ星を見たことがなくて、絶対に一回は見てみたいと言うのが彼女の夢でした。
だから時々やってくる○○座流星群のニュースを聞くと、その度に狭いマンションのベランダで2人並んで夜空を見上げるのです。
「流れ星が見えたらお願い事するんでしょ?何にしようか迷う~」
なんて言いながら、娘は“サンタさんに頼めなかったけどやっぱり欲しい物”を私にあれこれ教えてくれました。
その日の夕方のニュースによると、ふたご座流星群は東北東の空に見られるとのことでした。
我が家のベランダから見えるのは主に南の空。東北東を見上げるには、ベランダの鉄柵に身体を押し付けて、さらに首をかなりの角度でねじ曲げなければいけません。
5分もしないうちに首は痛くなり、鉄柵に張り付いた身体は冷えきってしまいました。
私は部屋からフリースの毛布を持って出て、まるでペンギンの親子のようなスタイルに娘と2人でくるまりました。
空にはだんだん雲が出てきたようで、さっきまでくっきり見えていたオリオン座もかすんできたような気がします。
「今日は見えないかもしれないねぇ」と私が言うと
「いやだ~、流れ星見たい~」と娘はくちびるをとんがらせ
「ママが見たのは何流星群やったっけ?」って聞きました。
私が20年近く前に見たのは“しし座流星群”。
娘はその話が大好きで、何回話しても楽しそうに聞いてくれるのです。
「ママがまだおねえちゃんだったころでしょ?」って。
そう、あの頃ママはまだピチピチのおねえちゃんでした。
そして娘のおじいちゃんおばあちゃんを「パパ」「ママ」って呼んでいて、いっしょに暮らしておりました。
都会生まれの私も母も、やっぱり流れ星を見たことがありませんでした。
だから“数百年に一度の天体ショー しし座流星群”のニュースを聞いたときは
「もしかしたら見られるかもしれないね」とかなり興奮したものです。
あの夜、2時頃にセットしたアラームで起き出した私は、静かに母を起こしに行きました。
そしてパジャマの上にたくさん着込んで、家の前の公園へ行きました。
公園のベンチに向かってよろよろと歩く、だるまみたいに着膨れした母の姿がめちゃめちゃおかしくて!でも静まりきった公園に声が響くので、笑えないのが苦しくて苦しくて!母は母で悶える私の姿を見て笑いをこらえてるし、そもそもこんな真夜中に親子で公園に来るなんて!と、何もかもがおかしくなったのを覚えています。
そんなこんなでやっとベンチに座って空を見上げた瞬間。
シュッ!って音が聞こえそうなくらいの勢いで、星の光が空を横切りました。
「見た?!流れ星!」
「見た!あぁでもお願い事できひんかった!」
ご近所迷惑にならないように、と思いながらも興奮を抑えきれず喜び合う母と私でしたがその数秒後。見上げる空いっぱいに流れるたくさんの星!
東北東やら南南東やらまるで関係なく、あっちからもこっちからもあらゆる方角からひゅんひゅんと光が飛んできました。
本当に、詩的な表現でも何でもなく「地球に星が降り注ぐ」光景にあっけにとられ…お願い事のチャンスがそれこそ「星の数ほど」あったと言うのに、そんな煩悩や欲望なんて全部どうでもよくなってしまうほど大迫力の天体ショーに心を奪われていました。
「すごいねぇ、見に来てよかったねぇ」としみじみかみしめていると、誰かがやってくる足音がしました。
「明日はゴルフで早起きするんやから、俺のことは絶対に起こすなよ!」と言っていた父が公園にやってきたのです。
父はカーテンを閉めててもまぶしいくらいの星の光に目が覚めてしまい、これは見なくちゃと思って出てきたらしいのですが、防寒対策が全くなってない!
母と2人でくるまってた毛布に父も引きずり込み、3人で空を見上げていたらまた足音が。
昨日の夜、流星観測に誘ったのに、どうせ見えないからと断った兄までやってきたのです。どうやら父が出てくるときにうるさくて目が覚めたらしいのですが
「なんか外がまぶしいと思ったら、めっちゃ流れてるやん!」と走って出てきたのでした。
娘はここのエピソードが特にお気に入り。
「おじいちゃんもおじちゃんも、今では流れ星よりまぶしいくせに!」って、オデコを出しながらのツッコミも含めて、しし座流星群の思い出話となっています。
それにしてもあの時の流星群は本当にすごかった…娘にも見せてあげたいけど、なにしろ数百年に一度の天体ショーだったからなぁ…と思った矢先。
星の光が一筋、東の空に流れました。あ!と思った時に娘が毛布から飛び出して叫びました。
「ありがとー!」って。
娘はバンザイしながらぴょんぴょん飛び跳ねていました。
「それ全然お願い事ちがうやん」って笑いながら、私は毛布の中に娘を抱えこみました。
ありがとう、本当にありがとうだね。父と母と兄と4人で見たたくさんの流星も、娘と2人で見たひとつの流れ星も、それだけで十分宝物だよね。ありがとうだよね。そんな思いに涙ぐむ私の腕の中で、娘は
「あぁ、やっぱりニン○ンドースイッチ!って言えばよかった」
と、なかなか現実的な反省をしてました(笑)
私にも欲しい物は山ほどあるけれど、これから流れ星を見るチャンスがあれば、やっぱり「ありがとー!」ってバンザイして叫ぶつもりです。